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「おとこのこ」ってなんでできてる?(日米開戦時限定版)
大正時代、「日米未来戦記」という「新ジャンル」が流行ったらしい。『少年倶楽部』など、戦後マンガ雑誌の直接の母体とも言われるメディアの呼び物だったようだが、オトナのほうも「ロシアの次はアメリカに備えねば!」を常識にしていたフシがあり、先行してまじめな戦略論や、それを下敷きにした「シミュレーション戦記」が流行している。
下表では、大正期における日米未来戦記の系譜をもとに、主要サクヒンを日清〜太平洋戦争までの年表に落とし込んでみた。年齢欄は雑駁な想定読者。なお「ミスターX」が誰かは表末尾に。
| 年号 | 元号 | 一般 | 戦争・事件 | 経済・景気 | ミスターX | 年齢1 | 年齢2 | 年齢3 | 備考1 |
|---|
| 年号 | 元号 | 一般 | 戦争・事件 | 経済・景気 | ミスターX | 年齢1 | 年齢2 | 年齢3 | 備考1 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1894 | 明27 | 日清戦争 | 5 | ||||||||
| 1895 | 明28 | 賠償金景気(大戦景気の始祖鳥) | 6 | ||||||||
| 1896 | 明29 | 7 | |||||||||
| 1897 | 明30 | 8 | |||||||||
| 1898 | 明31 | 9 | |||||||||
| 1899 | 明32 | 10 | |||||||||
| 1900 | 明33 | 11 | |||||||||
| 1901 | 明34 | 12 | |||||||||
| 1902 | 明35 | 13 | |||||||||
| 1903 | 明36 | 14 | |||||||||
| 1904 | 明37 | 日露戦争 | 15 | ※日露戦争後、日米未来戦記が出始める。以後、第一次大戦を挟む兵器の進化(飛行機、潜水艦、戦車、ガス、その他)や、国際情勢の変化(ワシントン軍縮会議など)を踏まえつつ、描写を変化させていく。 | |||||||
| 1905 | 明38 | 16 | |||||||||
| 1906 | 明39 | 17 | |||||||||
| 1907 | 明40 | 18 | |||||||||
| 1908 | 明41 | 19 | |||||||||
| 1909 | 明42 | 20 | |||||||||
| 1910 | 明43 | 韓国併合 | 21 | 16 | ← | ← |
■『小説日米戦争夢物語』
阿武天風,「冒険世界」1910年4月臨時増刊号 虎髯大尉名で掲載) |
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| 1911 | 明44 | 22 | 17 |
■『日米戦争』
池亨吉訳, 1911/10/31 博文館 米人著者は、米国の敗北を描くことで、米国の軍備増強を訴えた。 成人むけの日米未来戦記は、自国の軍備増強を訴えるなど、警鐘を鳴らすのが目的。最新の国力比較、国際情勢、ハイテク兵器などの知識を集約したヨミモノってゆうかトム・クランシー?。 |
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| 1912 | 大01 | 23 | 18 | ||||||||
| 1913 | 大02 | 24 | 19 | ||||||||
| 1914 | 大03 | 第一次世界大戦 | 大戦景気(成金の始祖鳥) | 25 | 20 |
■『次の一戦』
水野広徳, 1914/06/30, 金尾文淵堂 日本の敗北を描くことによって、日本の軍備増強を訴えた。 筆者は、日露戦争の経験を書いた『此の一戦』(1911/03/18, 博文館)で有名になった現役の海軍中佐。てゆうかコレ、たしか『坂の上の雲』の種本のひとつ。 |
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| 1915 | 大04 | 26 | 21 | ||||||||
| 1916 | 大05 | 27 | 22 | ||||||||
| 1917 | 大06 | 28 | 23 | ||||||||
| 1918 | 大07 | シベリア出兵 | 戦後恐慌 | 29 | 24 | ||||||
| 1919 | 大08 | 30 | 25 | ||||||||
| 1920 | 大09 | 国際連盟 | 31 | 26 | ← | ← |
■『第二次世界大戦 日米戦争未来記』
樋口麗陽,「新青年」, 1920年九月〜七月号 〈西暦一千九百年代も殆ど二千年に接近せんとした某年某月某日〉に日米戦争が勃発。第二次世界大戦に拡大するというもの。 |
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| 1921 | 大10 | ワシントン海軍軍縮条約 | 32 | 27 | |||||||
| 1922 | 大11 | 33 | 28 | 12 | ← | ■
『小説日米未来戦』
宮崎一雨, 「少年倶楽部」1922年一月号〜1923年二月号 1)平和を欲するなら戦いに備えよ こどもむけ日米未来戦記は「平和を欲するなら戦いに備えよ」とか「降り掛かる火の粉は払わねばならない」などの観点を、第一次大戦を挟む兵器の進化や、国際情勢の変化を踏まえて語るものだった。 以下序文。 「本書を読まれる少年諸君は、宜しく篇中の局部々々を熟読せられたい、決して軍備拡張は主張してゐない、戦争謳歌はしてゐない、爾も併しながら、此一篇を公けにしないわけに行かない理由を発見される事であらう」 これを売るための方便と見下すのはカンタンだが、同時期の平和主義的な童話(小川未明などの芸術的児童文学)は、象徴的な手法で平和の重要性を描くにすぎず、具体性を欠いている。 「おとこのこ」としちゃ前者のほうが面白いであろう。 2)『次の一戦』に酷似した描写が多い。
原典には、 これについては、初期の手塚治虫作品にはモロにディズニーキャラが登場する。初期のゲーセン向けゲームにはスターウォーズやガンダムのガジェットがけっこーモロに登場する。『サクヒン・ジャンルとして社会に認められる前』には普遍的な現象かも知れない。 3)SF的なガジェット満載のおもしろさ 成人向けに軍備増強を訴えるには日本が負ける必要があるが、コドモ向けでそれは売り上げにひびく。...従って「これが勝利の鍵だ!」的な「秘密兵器」が結構重要な存在になる。 これ以降、潜水艦、飛行機、ガス、熱線兵器、光線兵器などなどなど、SF的なガジェット満載のおもしろさは、子どもむけ日米未来戦記で発展してゆく(しかしドリルはないようだ)。 |
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| 1923 | 大12 | 関東大震災 | 震災手形問題 | 34 | 29 | 13 | |||||
| 1924 | 大13 | 35 | 30 | 14 | |||||||
| 1925 | 大14 | 日本初のラジオ放送 | 36 | 31 | 15 | ■『日米関係未来記 太平洋戦争』 翻訳:堀敏一, 1925/09/12, 民友社 原著者はジャーナリスト。第一次大戦中は英国情報部。 |
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| 1926 | 昭01 | 37 | 32 | 16 | ■『日米大決戦』 宮崎一雨, 「少年世界」, 1926年一月号〜1927年一二月号 阿武天風, 「少年倶楽部」, 1926年一月号〜1927年一一月号 原典にも |
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| 1927 | 昭02 | 昭和金融恐慌 | 38 | 33 | 17 | ※比較的自由にものが言えた大正時代だが、昭和に入ると「愛国的」なヨミモノにも検閲の網がかかるようになり、後世に名が残るようなサクヒンは少なくなってゆく。 | |||||
| 1928 | 昭03 | 男子普通選挙 | 張作霖爆殺事件 | 39 | 34 | 18 | |||||
| 1929 | 昭04 | 世界恐慌,昭和農業恐慌 | 40 | 35 | 19 | ||||||
| 1930 | 昭05 | 金解禁, 昭和恐慌 | 41 | 36 | 20 | ||||||
| 1931 | 昭06 | 満州事変 | 42 | 37 | 21 | ||||||
| 1932 | 昭07 | 満洲国建国 | 五・一五事件 | 43 | 38 | 22 | |||||
| 1933 | 昭08 | 国際連盟脱退 | 44 | 39 | 23 | ||||||
| 1934 | 昭09 | 45 | 40 | 24 | |||||||
| 1935 | 昭10 | 天皇機関説問題 | 46 | 41 | 25 | 12 | ■『昭和遊撃隊』
平田晋策, 講談社, 1935/02/24(連載は「少年倶楽部」) ※検閲による規制(または自主規制) 当時の検閲基準には『戦争挑発の虞れある事項』が含まれていた。未来戦記はこのチェックにかかり、発禁処分となった例があるようだ。 |
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| 1936 | 昭11 | 日独防共協定 | 二・二六事件 | 47 | 42 | 26 | 13 | ||||
| 1937 | 昭12 | 日独伊防共協定 | 日中戦争 | 48 | 43 | 27 | 14 | ||||
| 1938 | 昭13 | 49 | 44 | 28 | 15 | ||||||
| 1939 | 昭14 | ノモンハン事件 | 50 | 45 | 29 | 16 | |||||
| 1940 | 昭15 | 大政翼賛会結成 | 51 | 46 | 30 | 17 |
石原莞爾, 1940年9月、立命館出版部 つまりこれが「ミスターX」w。 閣下がどうかは知らないが、受け取る側としては「がががガンダムの世界が!」みたいな燃え方もしちゃったりなんかしてたんでにゃいのぉ〜?などと思わないでもない。 |
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| 1941 | 昭16 | 太平洋戦争 | 52 | 47 | 31 | 18 | |||||
| 1942 | 昭17 | 53 | 48 | 32 | 19 | ||||||
| 1943 | 昭18 | 54 | 49 | 33 | 20 | ||||||
| 1944 | 昭19 | 55 | 50 | 34 | 21 | ||||||
| 1945 | 昭20 | 敗戦 | cf. 戦後混乱期 | 56 | 51 | 35 | 22 | ||||
成人向けであれ、ヤングアダルト向けであれ、児童向けであれ、「十代後半までに日米未来戦記に夢中になった層」は、日米開戦時には労働生産人口のほぼ全年齢層に分布している。
| 石原閣下52歳 | ■『日米戦争』発行時22歳 |
| 将官級47歳 | ■『小説日米戦争夢物語』 発行時16歳 |
| 佐官級31歳 | ■ 『小説日米未来戦』 発行時12歳 |
| 士官学校級18歳 | ■ 『昭和遊撃隊』 発行時12歳 |
...と、ここまで書いてから東條英機(1884生)や辻政信(1902生)や牟田口廉也(1888生)などの微妙キャラも加えたほうが面白いと気づいたんだけど、OooとKompozerと手修正なんでパスです。暇なヒトは表計算でやってみたら結構ウケるかもしれません(てゆうか辻〜んウケた)。
とくに安直な結論を出す事は控えますが、2008年秋現在、コレに匹敵するものといったら、やっぱアレでしょアレ。悲しいけどアレが浮かんぢゃうのよね!
雑駁なまとめ
- 明治末期
- 日露戦争後、次は日米だ。という認識が日米双方で広まる。これは双方の軍事専門家の間で一般的な未来予測で、両者とも、それに備えるため自国の軍備増強を主張。
- 大正期間
- 成人向けに軍備増強を訴えるには日本が負ける必要があるが、コドモ向けでは「努力・友情・勝利」の最重要項目を欠く事になる。しかし「最新の国際情勢と科学技術」という舞台設定に人気がある事情から「秘密兵器」が重要な存在になる(余談ながら「空想科学小説」というコトバはこの時代に産まれているはずだ)。あとは努力と友情。たぶん当時は「大和魂」と言ったはずだ。
- 昭和初期
- やがて競争の中で描写がエスカレートし、検閲基準に『戦争挑発の虞れある事項』が含まれるに至る。これによる発禁処分や、これを避けるための内容自粛が広まってゆくなかで、ジャンル自体がイキオイを失ってゆく。
この間、約25年。よくも悪くも同時期の平和主義的な童話は、象徴的な手法で平和の重要性を描くにすぎず、具体性を欠いている。根拠レスな推測ながら、ここにフラストレーションを感じた人々が、上記の検閲を推進/歓迎したと思われる。
しかしその一方、「降り掛かる火の粉は払わねばならない」も「平和を欲するなら戦いに備えよ」も真理だが、「単に戦いに備えたいだけ」や「純粋に火の粉ラブ」が増えてもちょっと困る。このへんの区別は理屈ぢゃまず無理で、目尻や口吻で見当をつけるしかない事が大半なのだけど、そのへんで「社会的な ホメオスタシス 」というか「集合的な無意識のビルトイン・スタビライザー」というか、、、どっちも勝手な造語だけど、なんかそんなよーなものが起動したようにも見える。
ん〜。まとめにこんなこと書くのもなんだけど、「XX有害論」や「XX規制論」に抗するに「科学的根拠がない」「言論の自由」「表現の自由」の三点セットって、ほとんど意味ないような気がすんだよね。
出典
コメント
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a : 2008/11/15 (土) 05:41:06 修正
当時の米国では? カエル : 2008/11/15 (土) 17:47:31 修正
米日戦争物とかは書かれていたのだろうか?
(または米独戦争とか米露戦争とか)
SF的な戦争物として宇宙戦争とかが書かれていたり(ラジオ放送されて大騒ぎになったと言う話を聴いた記憶がある)で、SF的な宇宙人物多く、設定として特定の国家を相手に米国が戦争をするというのは、あったのだろうか?
(まあ妙に日本人のような宇宙人。ロシア人のような宇宙人、ドイツ人のような宇宙人……とかはいたかもしれませんが)
そこら辺の資料とかは、無いのでしょうか?
a様, カエル様 ageha : 2008/11/17 (月) 22:01:11 修正
■a様
はぁ、そこはどうしようかなと思ったんですが、ちと思いつきを抑えきれなかった部分であります。違和感ありましたら適当に読み飛ばして頂けますと幸いです。
「カテゴリ:ゲームのミカタ」は「ゲーム脳、およびそれに類似の規制論」にどう応対したらいいのかねぇと考えて作ったものなのですが、筆力の及ばぬところが多々ありまして。
■カエル様
米国の「米日戦争物」という事ですと、表中の明治44年の『日米戦争』の項をご覧下さい。他の資料等は存じません(もし発見されましたら教えて下さい)。
なお、Wikipediaの「カラーコード戦争計画」、「レインボー・プラン」あたりの記載や、同時期の日系移民排斥運動、そしてフィリピンの植民地権益の保全や日本に対する中国市場開放要求、などを考えると、日本同様、軍人さんの危機意識を起点とする読み物群が、もうちょっとあってもよさそうな気もします。
しかし(おそらくはご承知の通り)「旧大陸の戦争には巻き込まれたく無いなぁ」という世論が大勢だったこと、そして、一般には当時の日本は米国人にとってそう大きな存在ではなかった事から、あったとしても人気は取れなかったように思います。例えますと、現代の米国で「米印もし戦わば」的な読み物が人気を博す事は考えにくいですので、そんなもんだったんではないかと。