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「おとこのこ」ってなんでできてる?(日米開戦時限定版)

最終更新:2008/11/10

 大正時代、「日米未来戦記」という「新ジャンル」が流行ったらしい。『少年倶楽部』など、戦後マンガ雑誌の直接の母体とも言われるメディアの呼び物だったようだが、オトナのほうも「ロシアの次はアメリカに備えねば!」を常識にしていたフシがあり、先行してまじめな戦略論や、それを下敷きにした「シミュレーション戦記」が流行している。

 下表では、大正期における日米未来戦記の系譜をもとに、主要サクヒンを日清〜太平洋戦争までの年表に落とし込んでみた。年齢欄は雑駁な想定読者。なお「ミスターX」が誰かは表末尾に。


年号 元号 一般 戦争・事件 経済・景気 ミスターX 年齢1 年齢2 年齢3 備考1
年号 元号 一般 戦争・事件 経済・景気 ミスターX 年齢1 年齢2 年齢3 備考1
1894 明27 日清戦争 5
1895 明28 賠償金景気(大戦景気の始祖鳥) 6
1896 明29 7
1897 明30 8
1898 明31 9
1899 明32 10
1900 明33 11
1901 明34 12
1902 明35 13
1903 明36 14
1904 明37 日露戦争 15 ※日露戦争後、日米未来戦記が出始める。以後、第一次大戦を挟む兵器の進化(飛行機、潜水艦、戦車、ガス、その他)や、国際情勢の変化(ワシントン軍縮会議など)を踏まえつつ、描写を変化させていく。
1905 明38 16
1906 明39 17
1907 明40 18
1908 明41 19
1909 明42 20
1910 明43 韓国併合 21 16 ■『小説日米戦争夢物語』

 阿武天風,「冒険世界」1910年4月臨時増刊号 虎髯大尉名で掲載)
 今日でいうヤングアダルト層むけ

1911 明44 22 17 ■『日米戦争』

 池亨吉訳, 1911/10/31 博文館
 原書:The Valor of Ignorance ホーマー・リー(Homer Lea)1909
 成人むけ,ベストセラー, ノンフィクション, 未来予測。

 米人著者は、米国の敗北を描くことで、米国の軍備増強を訴えた。

 成人むけの日米未来戦記は、自国の軍備増強を訴えるなど、警鐘を鳴らすのが目的。最新の国力比較、国際情勢、ハイテク兵器などの知識を集約したヨミモノってゆうかトム・クランシー?。

1912 大01 23 18
1913 大02 24 19
1914 大03 第一次世界大戦 大戦景気(成金の始祖鳥) 25 20 ■『次の一戦』

 水野広徳, 1914/06/30, 金尾文淵堂
 成人むけ, ベストセラー, フィクション仕立ての近未来小説

 日本の敗北を描くことによって、日本の軍備増強を訴えた。

 筆者は、日露戦争の経験を書いた『此の一戦』(1911/03/18, 博文館)で有名になった現役の海軍中佐。てゆうかコレ、たしか『坂の上の雲』の種本のひとつ。

1915 大04 26 21
1916 大05 27 22
1917 大06 28 23
1918 大07 シベリア出兵 戦後恐慌 29 24
1919 大08 30 25
1920 大09 国際連盟 31 26 ■『第二次世界大戦 日米戦争未来記』

 樋口麗陽,「新青年」, 1920年九月〜七月号
 成人向け

 〈西暦一千九百年代も殆ど二千年に接近せんとした某年某月某日〉に日米戦争が勃発。第二次世界大戦に拡大するというもの。

1921 大10 ワシントン海軍軍縮条約 32 27
1922 大11 33 28 12 ■ 『小説日米未来戦』

 宮崎一雨, 「少年倶楽部」1922年一月号〜1923年二月号
 単行本『日米未来戦』, 大日本雄弁会(現・講談社)、1923八月。重版アリ。
 日米未来戦争を子どもむけに書いた本格的な読物としては最初のもの。

1)平和を欲するなら戦いに備えよ

 こどもむけ日米未来戦記は「平和を欲するなら戦いに備えよ」とか「降り掛かる火の粉は払わねばならない」などの観点を、第一次大戦を挟む兵器の進化や、国際情勢の変化を踏まえて語るものだった。

 以下序文。

 「本書を読まれる少年諸君は、宜しく篇中の局部々々を熟読せられたい、決して軍備拡張は主張してゐない、戦争謳歌はしてゐない、爾も併しながら、此一篇を公けにしないわけに行かない理由を発見される事であらう」

 これを売るための方便と見下すのはカンタンだが、同時期の平和主義的な童話(小川未明などの芸術的児童文学)は、象徴的な手法で平和の重要性を描くにすぎず、具体性を欠いている。

 「おとこのこ」としちゃ前者のほうが面白いであろう。

2)『次の一戦』に酷似した描写が多い。

 原典には、この頃の大衆読物作家には剽窃という意識はない。タネ本があることがむしろ普通のことであり、こうしたことを悪とするような社会的土壌がそもそも存在していなかった。とある。

 これについては、初期の手塚治虫作品にはモロにディズニーキャラが登場する。初期のゲーセン向けゲームにはスターウォーズやガンダムのガジェットがけっこーモロに登場する。『サクヒン・ジャンルとして社会に認められる前』には普遍的な現象かも知れない。

3)SF的なガジェット満載のおもしろさ

 成人向けに軍備増強を訴えるには日本が負ける必要があるが、コドモ向けでそれは売り上げにひびく。...従って「これが勝利の鍵だ!」的な「秘密兵器」が結構重要な存在になる。

 これ以降、潜水艦、飛行機、ガス、熱線兵器、光線兵器などなどなど、SF的なガジェット満載のおもしろさは、子どもむけ日米未来戦記で発展してゆく(しかしドリルはないようだ)。

1923 大12 関東大震災 震災手形問題 34 29 13
1924 大13 35 30 14
1925 大14 日本初のラジオ放送 36 31 15 ■『日米関係未来記 太平洋戦争』

 翻訳:堀敏一, 1925/09/12, 民友社
 原書:英国人バイウオーター(Hector C. Bywater),The Great Pacific War 1925
 成人むけ、ベストセラー

 原著者はジャーナリスト。第一次大戦中は英国情報部。

1926 昭01 37 32 16 ■『日米大決戦』

 宮崎一雨, 「少年世界」, 1926年一月号〜1927年一二月号
 一雨の日米未来戦ものの総決算とも言うべきもの。

■『愛国小説 太陽は勝てり』

 阿武天風, 「少年倶楽部」, 1926年一月号〜1927年一一月号

 原典にも競作の観とあるが、「ガンダム後のリアルロボ」,「エヴァ後のくよくよロボ」,「DQ/FF狙いの雨後のタケノコRPG」,何が始祖鳥か知らんが女の子が大勢同居で血縁がなくて(略),何が始祖鳥か知らんが男の子が大勢で(腐)...みたいなカンジになっていたと思われる。

1927 昭02 昭和金融恐慌 38 33 17 ※比較的自由にものが言えた大正時代だが、昭和に入ると「愛国的」なヨミモノにも検閲の網がかかるようになり、後世に名が残るようなサクヒンは少なくなってゆく。
1928 昭03 男子普通選挙 張作霖爆殺事件 39 34 18
1929 昭04 世界恐慌,昭和農業恐慌 40 35 19
1930 昭05 金解禁, 昭和恐慌 41 36 20
1931 昭06 満州事変 42 37 21
1932 昭07 満洲国建国 五・一五事件 43 38 22
1933 昭08 国際連盟脱退 44 39 23
1934 昭09 45 40 24
1935 昭10 天皇機関説問題 46 41 25 12 ■『昭和遊撃隊』

 平田晋策, 講談社, 1935/02/24(連載は「少年倶楽部」)
 ※単行本で作品のリアリティーと緊張感を台なしにする修正(内務当局への配慮?)。

※検閲による規制(または自主規制)

 当時の検閲基準には『戦争挑発の虞れある事項』が含まれていた。未来戦記はこのチェックにかかり、発禁処分となった例があるようだ。

1936 昭11 日独防共協定 二・二六事件 47 42 26 13
1937 昭12 日独伊防共協定 日中戦争 48 43 27 14
1938 昭13 49 44 28 15
1939 昭14 ノモンハン事件 50 45 29 16
1940 昭15 大政翼賛会結成 51 46 30 17

 石原莞爾, 1940年9月、立命館出版部

 つまりこれが「ミスターX」w。

 閣下がどうかは知らないが、受け取る側としては「がががガンダムの世界が!」みたいな燃え方もしちゃったりなんかしてたんでにゃいのぉ〜?などと思わないでもない。

1941 昭16 太平洋戦争 52 47 31 18
1942 昭17 53 48 32 19
1943 昭18 54 49 33 20
1944 昭19 55 50 34 21
1945 昭20 敗戦 cf. 戦後混乱期 56 51 35 22
.

 成人向けであれ、ヤングアダルト向けであれ、児童向けであれ、「十代後半までに日米未来戦記に夢中になった層」は、日米開戦時には労働生産人口のほぼ全年齢層に分布している。

■「おとこのこ」ってなんでできてる?(日米開戦時限定版)
石原閣下52歳 ■『日米戦争』発行時22歳
将官級47歳 ■『小説日米戦争夢物語』 発行時16歳
佐官級31歳 ■ 『小説日米未来戦』 発行時12歳
士官学校級18歳 ■ 『昭和遊撃隊』 発行時12歳
※この頃はほぼ「人生50年」。日本人の平均寿命が伸びるのは戦後なので。

 ...と、ここまで書いてから東條英機(1884生)辻政信(1902生)牟田口廉也(1888生)などの微妙キャラも加えたほうが面白いと気づいたんだけど、OooとKompozerと手修正なんでパスです。暇なヒトは表計算でやってみたら結構ウケるかもしれません(てゆうか辻〜んウケた)

 とくに安直な結論を出す事は控えますが、2008年秋現在、コレに匹敵するものといったら、やっぱアレでしょアレ。悲しいけどアレが浮かんぢゃうのよね!

雑駁なまとめ

明治末期
 日露戦争後、次は日米だ。という認識が日米双方で広まる。これは双方の軍事専門家の間で一般的な未来予測で、両者とも、それに備えるため自国の軍備増強を主張。
大正期間
 成人向けに軍備増強を訴えるには日本が負ける必要があるが、コドモ向けでは「努力・友情・勝利」の最重要項目を欠く事になる。しかし「最新の国際情勢と科学技術」という舞台設定に人気がある事情から「秘密兵器」が重要な存在になる(余談ながら「空想科学小説」というコトバはこの時代に産まれているはずだ)。あとは努力と友情。たぶん当時は「大和魂」と言ったはずだ。
昭和初期
 やがて競争の中で描写がエスカレートし、検閲基準に『戦争挑発の虞れある事項』が含まれるに至る。これによる発禁処分や、これを避けるための内容自粛が広まってゆくなかで、ジャンル自体がイキオイを失ってゆく。

 この間、約25年。よくも悪くも同時期の平和主義的な童話は、象徴的な手法で平和の重要性を描くにすぎず、具体性を欠いている。根拠レスな推測ながら、ここにフラストレーションを感じた人々が、上記の検閲を推進/歓迎したと思われる。

 しかしその一方、「降り掛かる火の粉は払わねばならない」も「平和を欲するなら戦いに備えよ」も真理だが、「単に戦いに備えたいだけ」や「純粋に火の粉ラブ」が増えてもちょっと困る。このへんの区別は理屈ぢゃまず無理で、目尻や口吻で見当をつけるしかない事が大半なのだけど、そのへんで「社会的な ホメオスタシス 」というか「集合的な無意識のビルトイン・スタビライザー」というか、、、どっちも勝手な造語だけど、なんかそんなよーなものが起動したようにも見える。

 ん〜。まとめにこんなこと書くのもなんだけど、「XX有害論」や「XX規制論」に抗するに「科学的根拠がない」「言論の自由」「表現の自由」の三点セットって、ほとんど意味ないような気がすんだよね。

出典

コメント

 a : 2008/11/15 (土) 05:41:06 修正

まとめの部分が全く別の話題のように感じられるのですが、そのくだりを説明していただけないでしょうか?

当時の米国では? カエル : 2008/11/15 (土) 17:47:31 修正

これを読むと、戦前辺りの米国に対する漠然とした日本国民のライバル意識の様な代物が見えて来る気もするんですが、逆に当時の米国の国民意識の様なものとしては、日本をどの様に捉えていたんでしょうね?
米日戦争物とかは書かれていたのだろうか?
(または米独戦争とか米露戦争とか)
SF的な戦争物として宇宙戦争とかが書かれていたり(ラジオ放送されて大騒ぎになったと言う話を聴いた記憶がある)で、SF的な宇宙人物多く、設定として特定の国家を相手に米国が戦争をするというのは、あったのだろうか?
(まあ妙に日本人のような宇宙人。ロシア人のような宇宙人、ドイツ人のような宇宙人……とかはいたかもしれませんが)
そこら辺の資料とかは、無いのでしょうか?

a様, カエル様 ageha : 2008/11/17 (月) 22:01:11 修正

コメントありがとう御座います。失礼ながらまとめてお返事させて頂きます。

■a様
はぁ、そこはどうしようかなと思ったんですが、ちと思いつきを抑えきれなかった部分であります。違和感ありましたら適当に読み飛ばして頂けますと幸いです。
「カテゴリ:ゲームのミカタ」は「ゲーム脳、およびそれに類似の規制論」にどう応対したらいいのかねぇと考えて作ったものなのですが、筆力の及ばぬところが多々ありまして。

■カエル様
米国の「米日戦争物」という事ですと、表中の明治44年の『日米戦争』の項をご覧下さい。他の資料等は存じません(もし発見されましたら教えて下さい)。

なお、Wikipediaの「カラーコード戦争計画」、「レインボー・プラン」あたりの記載や、同時期の日系移民排斥運動、そしてフィリピンの植民地権益の保全や日本に対する中国市場開放要求、などを考えると、日本同様、軍人さんの危機意識を起点とする読み物群が、もうちょっとあってもよさそうな気もします。

しかし(おそらくはご承知の通り)「旧大陸の戦争には巻き込まれたく無いなぁ」という世論が大勢だったこと、そして、一般には当時の日本は米国人にとってそう大きな存在ではなかった事から、あったとしても人気は取れなかったように思います。例えますと、現代の米国で「米印もし戦わば」的な読み物が人気を博す事は考えにくいですので、そんなもんだったんではないかと。
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